» ユナイテッドアローズがコーディネートする横浜FCのスタイル
当社の商品部の者が個人的にJ磐田さんのある方と知り合いだったんです。静岡県は洋服関係の工場が元々多い地域なので、多分うちとの繋がりがあったんですね。当時のJ磐田はご存知の通り、毎年優勝争いをするほど強かったんですが、移動中の選手の服装が統一されていなくて、そこでUAに声がかかったわけです。2年位やらせてもらいました。
ほとんどなかったですね。今でこそ日本代表にダンヒルさんだったりがついてますけど。もっとも、ヨーロッパではずっと前から当たり前のことでしたから、日本がようやくそれに追いついてきた、という感じではないでしょうか。
株式会社レオック(以下、LEOC)の小野寺社長と共通の知り合いの方がお客様でおりまして、その方に小野寺社長をご紹介していただいたのがきっかけです。その時は、LEOCさんはまだ横浜FCのメインスポンサーではありませんでしたが、チームをこうやって変えていきたい!という構想を伺って、その熱意に心を打たれた感じですね。「自分もプロスポーツを変えたい!」って思いまして、それで、選手にスーツの提供であれば、お手伝いできるかなと。J磐田を担当させていただいていた頃は、スーツを提供する以外はスタジアムや記者会見等の会場に看板を出すだけでしたから、実はそれほど強く関わっていたわけではなかったんです。
着やすくて動きやすいもの、っていうのは当然なんですが、それでいてしっかりした良質のものをつくろうと思いました。サッカー選手は、試合後凄く疲れているときでもスーツを着てバス等で移動しなければなりません。だから、まずは動きやすいもの、というのは絶対的な条件としました。例えば、ゴワゴワしたもの等は嫌でしょうし。それともう一点。欧州のサッカー選手は、子供達は勿論、大人から見てもいわゆるヒーローで、移動中でも凄くビシっと決めているんですよね。それで、彼らみたいにビシッと決まるようなものを作りたいと思っていました。
やはり上半身と下半身のギャップですね。サッカー選手の太ももって本当に太いんですよ。1番太い選手ですと60センチくらいでしたけど、それって女性のウェスト位ですからね。でも、上半身には無駄な贅肉はついていない。普通に考えたらありえないギャップです。だから、普通に作ったら何だか不恰好になってしまうんです。なので、スタイリッシュになるように全身のバランスを考慮する、という点が大変な作業でした。全部で50着程つくったのですが、殆んどが特注ですから、職人もやはり苦労したと思います。
横浜FCの公式スーツ。
生地やデザイン、スリーピースというスタイルなどの
細部にいたるまでこだわりが詰め込まれている。
すごくありましたね。問い合わせなんかもかなりあって、J磐田さんのときより反響はよかったです。やっぱりただスーツを提供するだけか、そこから踏み込んで提案をさせていただいてるかで全然違ってくるんですね。見ていただいてる方々にもそれが伝わったのかもしれません。
まずは、デザインです。英国Savil Rowのテーラーがつくるスーツのように伝統に裏打ちされた現代風のもの、といったものでしょうか。次に、生地です。ご提供したものは全てWool100%でイタリアのLoro Piana社のものを使っており、英国スタイルなんですけれど、やわらかい質感を保っています。パンツはノープリーツでちょっとだけ太くしています。そして、最後に仕立ての点です。やはり、スーツはサイジングで決まりますから、きめ細かく採寸して選手一人ひとりに合ったものを追求しました。先ほども言いましたが、過酷な日程の中で厳しい試合を行った後に着て頂くものですから、とにかく快適な着心地を追求したかったです。あと実は、スリーピースというスタイルですかね。欧州のサッカークラブの中でもスリーピースのところは多分無いと思います。これは今回僕自身が拘りをもった部分で、絶対に実現しようと思っていました。
スリーピースにしたので、選手からは「ジャケットをいつでも脱げるので楽だよ」って言ってもらいました。これは狙い通りで、本当に嬉しかったです。
いえ、もともと夏も使えるような生地を使ってるんです。裏地に薄い布を張って、なるべく着心地がいいようにと工夫しています。やはりスーツでの長距離移動、特に試合後はきついでしょうから。プロジェクトが立ち上がって、最終的な納品になるまでに半年もかかりました。生地でこだわっていたらイタリアから生地が届くのが遅れてしまい、開幕にぎりぎりで間に合いました。本当にこだわっていたからとはいえ、間一髪ギリギリセーフだったんですよ。ネクタイとシャツも提供させていただいてます。あと、オフの選手たちのコーディネートもしてみたいですね。例えばイタリアのACミランにはDOLCE&GABBANAがスーツを提供しているのですが、オフや夏の暑い盛りの時期用にポロシャツをスウェットも提供してるんです。そこまでさせていただければ最高なんですけどね。
インタビュー中の岩野氏。
さわやかな笑顔の奥には仕事に対する情熱が見えていた。
選手に直接ご説明する機会はありませんでしたが、横浜FCの運営サイドの方にはお話しました。でも、選手が試合で疲れきってそこからバスで長距離移動が待っているという状態の中で、それが、じゃあ出来るか?って言ったら、やはり難しいですよね。ただ、カズ選手なんかは、本当にその点はすごく気を遣っていると思いますよ。本当にスーツのいろんな知識を持ち合わせている方でしたので、世界を知っている本当の一流選手だな、と思いました。なので、難しいとは思いますが、もう少し着こなしについては気にして欲しいな、というのは正直なところです。サッカー選手って、試合中のプレイはもちろんなんですけど、普段から「見られている」わけなので、「見られる」ということも仕事のひとつだと思います。サッカー発祥の地の英国では、「ファッションはマナー」という価値観が根付いてます。子供たちはそれを見て憧れを持って育っていきますので、英国ではサッカー選手のステイタスって確固たるもがありますよね。ヨーロッパって、政治家にすらスタイリストがついてたりするんです。
まず、僕は大好きですけどね(笑)。昨年から、「Sounds Good」というスポーツ向けのブランドを立ち上げました。コンセプトは、機能性が高くて且つファッション性に優れたアイテムを追求しよう、というものです。今世の中の多くのスポーツウェアは、機能性は高いのですが、ファッション性はあまり高いとはいえないものもあるかと思います。そこで、機能性とファッション性のどちらも妥協せずに追及していくことが「Sounds Good」のコンセプトなのです。もちろんスポーツのときだけじゃなく、普段着なんだけれどもファッション性の高い普段着としてラフに着れるアイテムづくりという目標もあります。
Sounds Good のアイテム。
ファッション性と機能性の両方を追求している。
そうですね。登山、サイクリング、ジョギング、ルームトレーニング等などです。競技の特徴というか求められるウェアの性質によって、ジャンルが分かれいます。他のスポーツウエアブランドと比べると、サイズとか色目には特にこだわってますね。実は横浜FCのユニフォームのデザインもUAの「Sounds Good」なんです。青地の生地に12本のラインが入ってるんですが、「11人の選手とサポーターである貴方」っていう意味があるんです。ちなみにあのユニフォームですが、ヒュンメルさん(スポーツメーカーで、横浜FCユニフォームの製造元)とコラボレートして作っているんです。デザインはうちがやって、生地はヒュンメルさんが。さっき「デザインも機能性も追及していきたい」といったと思いますが、まずは得意分野のデザインを担当させてもらったわけです。ヒュンメルさんも生地については専門家ですから、お互いの長所をあわせた作品に仕上げたわけです。ただ、もちろん今後のUAとしては、どちらも追い求めていくつもりです。今の僕の目標として、横浜FCの靴もやらせていただきたいなと思っているんです。スーツやネクタイとは違って、靴はサッカー選手の選手生命に関わるようなアイテムですから、今は専門の業者さんが作っていらっしゃるようなのですが、ゆくゆくはSounds Goodがそれも任せていただけるような信頼を積み上げていければと思っています。
ユナイテッドアローズがデザインした横浜FCのユニフォーム。
ヒュンメル社とのコラボレーションで作成されたが、
今後はすべて手がけて行きたいと語る岩野氏。
僕は「特商部」というまだ立ち上げたばかりの部署に所属しています。特商部を一言で説明すると、VIPのお客様や法人営業等を行う部署です。特商部というその名前だったり、VIP客というと、例えば、他のセレクトショップがやっていない特別な展開みたいに思われるかもしれませんが、実はそういう考えは無いんですよね。ただ本当に純粋にお客様に満足していただこうと思って出来た部署なんです。
例えば、VIPのご自宅にリクエストがあったアイテムやお勧めの商品をお持ちします。また、それ以外でもそのお客様に似合いそうなものや必要そうなもの等を揃えていきます。そして、コーディネートを細部にいたるまでご提案し、小物やアクセサリー等も範囲としています。
そうかもしれませんね。ただ決定的に違うのが、求められたものを売って終わりではない、ってことですね。さっきも言いましたけど、コーディネートのご提案だとかまでやっているところって、中々ないと思います。お客様がもうお使いになっていないアイテムを上手く組み合わせて、分かり易く言うと、それまでいわば2軍だった洋服を1軍に昇格させたりもするんです。お客様に最高に満足していただくための「パーソナルスタイリング」と言ってもいいかと思います。
やってるところもあるかもしれませんが、僕は聞いたことがないですね。特商部は、個人的には店での出会いを超えてお客様の本当のパートナーを目指す仕事だと思っています。ご出張のご予定を聞いて先に準備してあげたり、冠婚葬祭に必要なものを準備しておいたり、洋服以外でも家具や小物をご用意したり等などです。最近ではお客様と一緒に旅行に行ったりすることもありまして、近い将来特商部のお客様同士のコミュニティーみたいなものが広がっていけばいいなと思っています。
やっぱり、お客さんに喜んでもらえた瞬間って、何度味わってもたまらないですね。それは、横浜FCの選手もUAのショップに来ていただくお客さんも特商部のお客さんも変わりません。お客様から「ありがとう」と言ってもらえたりした瞬間は何にも替えがたいものがありますし、またがんばろう!という気持ちにさせてくれます。そのために仕事をしている、と言ってもいいかもしれません。
岩野氏の仕事中の一コマ。
横浜FCはもちろん特商部の仕事についても一切の妥協は許さない。
UAが横浜FCのスポンサーになったのも、こうしてオフィシャルスーツつくりの苦労話などを皆さんに聞いてもらう機会をいただけたのも、ひとつの縁だと思っています。サポーターとチームはもちろん、サポーター、チーム、スポンサーで一体感を持って一緒に横浜FCを応援して行ければいいなと思っています。UAも今までマスターピースさんといっしょに「くるピタバンド」を作ってサポータの皆さんに配ったりもしましたが、日常の中でそういう一体感を感じることって中々無いと思うので、そういうことが出来ればいいな、と思ってます。それと、時々UAのショップに来ていただいたり、うちのホームページを覗いてもらったりしていろいろな意見を頂けたらとても嬉しいです。
プロサッカー選手にとってのスーツは彼らの仕事の外のことのように思えるが、そこに妥協を許さず仕事に徹するプロがいた。Jリーグという舞台が華やかであり続けるには、選手たちが繰り広げるすばらしい試合はもちろんなのだが、「見られる」ことが仕事でもある彼らを影で支える存在があることを改めて知ることが出来た。主役を引き立てる存在として「選手やお客様に究極的に満足して欲しい、という一心で仕事に向き合う岩野氏の姿勢は、アウトソーサーである我々にとっても見習うべき点が多々あった。今後のユナイテッドアローズのスポーツへの取り組みや岩野氏の特商部としてのご活躍を期待したい。
大学在学中、アルバイトとしてUA名古屋店にアルバイトとして入社。新卒採用で不合格となったが、卒業後もUAでアルバイトを続け、バイト入社後1年で正社員になる。その後、ユナイテッドアローズ横浜店へ異動となり、上京。この時に住んでいた横浜はいまでも大好きな街だという。1年後、原宿本店に異動。原宿本店への異動から3年、入社から5年目には原宿本店の店長に就任。2007年からは特商部部長(最年少)となり、現在に至る。UAの横浜FCプロジェクトの責任者でもある。
設立:1,989年10月
事業内容:紳士服・婦人服及び雑貨等の企画・販売
本社所在地:東京都渋谷区神宮前2-31-12
TEL:03-5785-6325
URL:http://www.united-arrows.co.jp/
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カテゴリー:インタビュー