» クラブワールドカップ:ボカジュニアーズ対エトワール・サヘル観戦記
浦和レッズ出場とミランの日本での人気のおかげか、今年のクラブワールドカップは例年になく盛り上がっている。毎年軽視されがちな大会だが、アジアやアフリカのクラブにとっては欧州や南米の本物の強豪と真剣勝負できる唯一の大会である。南米のクラブにとっても「欧州の次」と評価されている南米クラブレベルを世界にアピールできる場で、モチベーションは相当高い。現にここ数年は南米クラブの対戦成績が欧州を圧倒している。レアル・マドリーやミランといった欧州屈指の強豪も何度も煮え湯を飲まされているし、昨年はリバプールが結局破れてしまったことも記憶に新しい。欧州クラブにとっては遠い日本まで「勝って当たり前、負けて大バッシング」という図式が目に見えている試合をしにこなければならない。過密日程が叫ばれているフットボール事情において、こんな理不尽なことはないかもしれない。ボカジュニアーズ対エトワール・サヘル。
ミランやレッズの試合とは違って注目度も低いのではないかと思っていたが、国立競技場はボカのグッズを身にまとった人で埋め尽くされていた。とは言ってもスタジアムのほとんどはボカの名前を聞いたことがあるから応援する、というスタンスの「どちらかというとボカ寄り」という日本人。注目すべきはスタンドの一部に陣取る「本物」のサポーター。激しくボカのチームフラッグを振り続け、応援歌を歌い続ける。ブエノスアイレスにあるボカのホームスタジアムはスタンドとピッチが防弾硝子で区切られているというが、そのくらい過激なサポーターということだ。そして「本物」のサポーターが来ているのはエトワール・サヘルも同じ。メキシコのパチューカを破ってここまで来ただけあって、自身と期待が大きいのだろう。決して数は多くないが、スタジアムの一角を真っ赤に染め上げている。興奮しすぎて警備員が静止に入るほどの熱狂ぶりで番狂わせを後押ししている。
ボカジュニアーズの名前を知らないフットボールファンはいないだろう。ワンタッチのパス回しと不規則なオフザボールの動きで相手に守備の的を絞らせない、いかにも南米のクラブらしい魅力あるサッカーを展開してくれるだろう。リケルメが今大会に参加できないのが残念でならない。エトワール・サヘルは正直言ってこの大会まで名前も聞いたことのないクラブで、どんなサッカーをするのか想像もつかない。しかし、結論から言ってしまえばエトワール・サヘルのサッカーはアフリカならではの高い身体能力だけでなく、ファイティングスピリッツ溢れるスタイルを見せてくれた。

試合前のピッチの風景。
予想に反し、スタジアムには多くに人が足を運んでいた。
大会の注目度の高さが伺える。
19時30分、定刻どおりにキックオフ。
序盤は中盤の主導権争いが続く。支配しているのは一見ボカなのだが、相手の出方を把握できていないのか決定的な場面は作れない。一方のエトワール・サヘルもロングボール主体で攻めてくるかと思っていたが丁寧につないでボカの隙を伺っている。次第に前に出始めたのはエトワール・サヘル。ショートパスをつないで崩そうという姿勢を見せておいて、突然のロングボールが効果を発揮し始める。再度バックの果敢なオーバーラップを突破口に、サイドアタックでボカのゴールに迫っていく。徐々にボカを自陣に押し込んでいき、コーナーキックやファウルを受ける機会が増える。
前半16分にはエトワール・サヘルがゴール正面のペナルティエリア手前でファウルを受け、絶好のチャンスを迎える。レフティのメリアフが遠いサイドにシュート!壁の間を抜けた低い弾道の素晴らしいシュートだったがキーパーの正面に飛んでしまった。これで目が覚めたのか、ボカがボール支配を強めていく。ボカとエトワール・サヘルの決定的な違いはバイタルエリア付近でのドリブル突破にあったように思う。やはり足元のテクニックではボカの方が2枚も3枚も上だった。それでもエトワール・サヘルは厳しいチェックで決定的なシーンは作らせない。激しいタックルは衝突音がスタンドに響くほどで、この試合がただのフレンドリーマッチではないことをまざまざと感じさせる。しかし、エトワール・サヘルの激しいプレスはクリーンなものばかりでラフプレーとは程遠い。中盤のプレスでボールを奪取し、ショートカウンターにつなげる。支配を強めるボカに対し、エトワール・サヘルも戦う方針を見つけたようだ。
前半も半ばを過ぎ、非常に拮抗した好ゲームになることを予感させた。戦前にボカの監督が宣言していたゴールラッシュはどうやらなさそう。これはボカが情けないというわけではなく、エトワール・サヘルがタイトなディフェンスを持ついいチームであることが判明したからだ。ボカの攻撃の中心は左サイドのカルドソ。小柄ながら相手のマークをはずす動きとドリブルテクニックが半端じゃない。エトワール・サヘルも数的優位を保つことで何とかしのいでいた。トップのパレルモを徹底マークで孤立させ、バネガがとのコンビネーションを封じ込めていたのが大きかった。
しかし、前半37分に均衡が崩れる。
この日、徹底マークで決定的なシュートはもちろんクサビの役割も果たせていなかったFWパレルモが輝いた。ルーズボールをワンタッチで振り向きざまに左サイドにはたく。これまで何とか前を向こうとしてきたパレルモのダイレクトプレーに完全に意表を突かれたエトワール・サヘルは一瞬パニックに陥った。ディフェンスラインの裏をついてボールを受けたパラシオがためをつくり、中盤の選手のオーバーラップを引き出す。パスを供給したパレルモはゴールを目指さずファーサードに流れ、相手DFを誘い出す。MFが飛び込むスペースを作り出していた。持ち前のテクニックで相手を翻弄したパラシオが中央に流し込んだボールを受けたのはカルドソ。迷いなく振りぬいた左足から繰り出されたボールはゴールネットに突き刺さった。歓喜するボカイレブン。待ちわびた瞬間の到来にスタジアムが沸騰する。この瞬間があるからサッカー観戦はやめられない。この日はほとんどいいところがなかったパレルモだったが、この場面では非常にいい働きをした。エトワール・サヘルとしてもミスはなかった。ボカのテクニックと徹底されたオフザボールの動き出しが光ったゴールだった。
前に出ざるを得なくなったエトワール・サヘルも反撃を開始。
攻撃の核になっていたのがFWシェルミティ。驚異的なスピードと闘争心でボカDFを何度も慌てさせる。中央突破を図ったかと思えばサイドに流れて組み立てに参加したりと、プレーの幅も広い。これでまだ19歳というから驚きだ。
前半終了間際、すばやいリスタートからシェルミティがトップスピードでペナルティエリアに侵入。ボカのDFがたまらず2人がかりでタックル。シェルミティはエリア内で激しく転倒するもホイッスルは鳴らない。逆サイドから観戦していたせいもあるかもしれないが、完全にファウルにも見えた。さらにシェルミティは中盤からのスルーパスに抜け出すと持ち前のスピードでDFを置き去りにし、体制を崩しながらもシュート!しかしこれはGKが片手で何とかはじき出す。ボカがリードを奪ったものの、どうやらこのままでは終わりそうもない雰囲気でハーフタイムを迎えることになった。

拮抗した試合展開に会場も盛り上がった。
何度もウエーブが起こり、非常にクリーンですばらしい雰囲気だった。
後半はまさに一進一退の攻防となった。
エトワール・サヘルの人数を掛けた攻撃をボカがしのぎ、カウンターを狙っていく展開。とはいえボカも堅守速攻だけでなく、中盤のパス回しとテクニックを活かしたドリブル突破を基点に相手の隙をつこうという狙いも見せていた。お互いに決定的なチャンスをモノに出来ずにいたが、次の1点を取ったチームが勝者になるであろうことは予想できた。それにしてもエトワール・サヘルの気迫には驚かされた。技術は高くない。機転の利いた攻撃をしているわけではない。それでもスピリット溢れるプレーとフィジカルの強さを活かした中盤のドリブル強行突破は迫力満点で、世界レベルの強豪であるボカと互角以上の試合を見せている。偉そうな言い方にはなるが非常に好感が持てるチームだった。そんな気迫に気圧されたのか、ボカの中盤のボールコネクターを勤めていたバルガスが2枚目のイエローカードを受けてしまう。10人になってしまったボカだったが、あのファウルがなければ確実に決定的なピンチを迎えていた。スタンドに大きなどよめきがおきる。エトワール・サヘルが追いつく。そういう雰囲気がスタンドを支配していた。
しかし、ボカはやはりボカだった。
10人になったことはまったく感じさせない試合運びを見せる。守備だけでなく、攻撃についてもこれまでどおりエトワール・サヘルに脅威を与えていた。激しく荒々しい南米のサッカーで常にトップにあり続けているチームらしく、10人になってもその戦い方はわかっているようで、慌てるそぶりはまったく感じられなかった。逆にエトワール・サヘルの攻撃はボカの壁に跳ね返され続ける。身体能力とスピリットはすばらしいが、やはり攻撃のアクセントに欠けていた。
後半も半ばを過ぎる頃にはボカDFにシェルミティへの対応にも順応されてしまい、攻撃の核を失った結果単調な放り込みや直線的なショートパスが目立ち始め、明らかにワンパターンになってしまっていた。えてして退場者を出したチームが冷静になり、優位を得たチームが焦ってしまうという典型的な試合になってしまった。互いにもう一歩のところでゴールには至らず、時間だけが過ぎていく展開。このあたりからボカはもうひとつの側面でもある「狡賢さ」を見せ始める。軽いチャージングで大げさに転がり込む選手や、なかなかボールを蹴り出さないGK。
しかし、非難するつもりは毛頭ない。
全てルールの範囲内であり、立派な作戦と言える。むしろ外連味のない彼らの姿勢を見て、なぜボカが試合巧者と呼ばれ、幾度となく欧州のチャンピオンを打倒することができたか、彼らの強さを感じさせられた。試合時間ももうなくなってきた。
エトワール・サヘルに残された選択肢はひとつだけ。
守備は捨て、数の論理で相手ゴールをこじ開けること。試合終了間際には高い位置をキープし続ける右サイドバック・フレジからのクロスをファーサイドで待っていたジャーがダイビングヘッド!しかしぎりぎりで枠を捉えることが出来ず、無情にも放ったシュートはピッチの外へこぼれていく。
そして試合終了のホイッスル。
ボカが前半のゴールを最後まで守りきり、きっちりと結果を残した。最後まで同点を狙う姿勢を見せ続けたエトワール・サヘルだったが、ボカが百戦錬磨の試合運びでうまくいなした結果だった。
1対0というスコア、互角の試合展開からすればエトワール・サヘルが敗れはしたものの前評判を覆したように見える。しかし、仮に10回戦ったとしてもボカが9回は勝つだろうという印象を受けた。白熱した展開ではあったが、ボカの試合運びを見る限り、1対0を狙ってやったのではないかと思った。最後は押し込まれているようにも見えたが、しっかりカウンターを狙っていて、エトワール・サヘルもそれを恐れて全員攻撃に踏み切れなかった。そして踏み切っていたとしても追いつかれるより突き放す結果になる可能性のほうが高かっただろう。しかし、エトワール・サヘルがすばらしいチームだったことは間違いない。シェルミティの突破以外に有効な攻撃がなかったのが敗因だと思うが、例えば優秀なサイドアタッカーが一人でもいればまったく違った試合展開になっていたかもしれない。ユベントスを髣髴とさせる中盤の激しいプレスはあのボカですら手を焼いていた。
レッズも敗れはしたものの、あのミラン相手に互角の勝負をしていた。今でこそクラブワールドカップの決勝は南米と欧州が定石だが、それ以外の地域のレベルアップも目覚しく、格差は確実に縮まっている。クラブワールドカップはもはや南米と欧州だけのものではない。そう思える夜だった。
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カテゴリー:サッカー観戦記